No. 207 3/18 いつまでも忘れない
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書こうか書かないか迷いましたが、書く事にしました。
-=-=-=

ちょうど10年前の春、僕はその子と初めて会いました。まだ真新しい制服を
着たその子は真っ白な肌をして、借りてきた猫みたいにちょこんと部室の隅
に座っていました。僕の第一印象は「かわいい子だなぁ」ということでした
が、のちに聞いたところによると彼女の僕に対する第一印象は「怖い人が睨
んでる」だったそうです。

いろいろと揉め事があったり、相談に乗ったりしているうちにそのうち一緒
に居るようになりました。

たとえば授業中にノートを破って手紙を書いたりだとか、それを昼休みに渡
したりだとか、それは結構アツアツだったのですが夏休みになるとぱったり
会わなくなってみたり、ちょっと不思議な付き合い方でした。

一度テスト期間の頃だったでしょうか。バス停までの道をいつものように手
をつないで歩いていたら、グラウンドで体育の授業をしている中学生の女の
子に冷やかされた事がありました。フェンスの向こうで女の子がでっかい声
で「あー、手ぇつないでるー」って大きな声で言ったのです。その言い方が
あまりにもかわいかったので、僕は彼女の腰に手を回してきゅっと抱きしめ
二人でその中学生に向かってピースをしました。その中学生の「悔しいー、
覚えてろー」という声はおかしくて今でも鮮明に思い出せます。

僕は小学生の頃、4年間だけ小樽という町に住んでいました。その頃はまだ
小樽運河もぜんぜん観光化されてなくて汚いドブみたいだった頃です。

そんな小樽の特に冬が大好きだった僕は彼女にいろいろな話をしましたが、
いつも彼女の反応はいまいちで、最後には「私はこの街で育ったんだから」
と拗ねた顔で言うのでした。

今から考えると、携帯電話とか、PHS とかインターネットとか、あの頃にあ
ったらどうなんだろうと思わないことも無いですが、浪人して札幌に移り住
んだ僕らはすぐに駄目になりました。遠距離ということよりも、いろいろな
環境の変化について行けなかったんだと思います。彼女は受験生になり、僕
は自由な世界へ放り出されています。「このイッコ年の差は一生追いつけな
いんだよね」といつも言っていた彼女にはつらい思いもあったのかも知れま
せん。

彼女と最後に話した日、彼女はこんな事を僕に言いました。

「いつかお互いが24とか25になった時に、二人で小樽にでも行こうね。」

それは絶対に無いことだとわかっていたのに、なんとなく気にしたまま長い
時間が経ってしまいました。もうそろそろ新しい恋をする季節なのかもしれ
ません。

26歳のお誕生日、おめでとう。



今回にてこのネタ永久封印です。