No. 454 10/11 願ってみる
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そこそこ混んでいる快速電車、本を読んでいたら私の前に
高校生の女の子が立った。今時にして黒髪、髪型こそ最近
のはやりだが、制服の着こなしもきちんとしていて珍しい
位に重そうなカバンを持っている。電車が揺れるたび彼女
の肩に本がぶつかるので私は本を読むのをやめた。

ふと視線を落とすと彼女のその重そうなカバンに一つのア
クセサリーが付いているのに気付いた。北国でよく売って
いる、ミンクの毛皮の切れ端を丸く丸めてキーホルダーに
したやつだ。見たことない人も多いかもしれないけど、
「まっくろくろすけ」を白くした(もちろん黒いのも売って
る)もので、例えば耳掻きの梵天であり、ケセランパサラン
であり。そんな風体をしており、肌触りもまたよい。

その昔、家族旅行でスキー場に行った際、そのころつき合
っていた彼女におみやげで買ったことがある。私は家の鍵
につけ、彼女はカバンにいつもぶら下げていた。

あるとき、彼女がこれでもかと言うくらいぐずぐずに泣き
崩れていてどうも周りの女の子から事情を聞くとその梵天
が切れてカバンから落ち、無くしてしまったらしい。
「怒らないであげてくださいね」なんてオトナっぽい台詞
を言うその子も同級生なわけで多分目の前でぐずぐずに泣
き崩れている彼女もときにはそんな事を言うのだろうけど、
二人きりになったとたんそれはもう小学生の様にわんわん
と泣いてたりしたっけ。余裕ある振りしてたけど、女の子
ってみんなこうなのか、って驚くやら、あわてるやら。

電車が新浦安に近づいたころ、「清楚な女学生」がもぞも
ぞとポケットから携帯電話を取り出し、「今かけ直すから
ちょっと待ってて」とそれはもう可愛い声で囁き、その声
は前出の彼女に似ているような似ていないような気がして
一生懸命彼女の声を思い出そうとするのだけど、全然思い
出せなくて、なんかどうでも良いことばかり覚えていて肝
心な部分は忘れちゃうんだなぁと思ったりしておかしくな
る。だって、彼女の声、すごく好きだったはずなのに。

どうでも良いことと言えば、いちど夏休みに炸裂した手紙
が届いた事があった。まぁ言ってしまえば別れの手紙で、
短くまとめると「私はアナタのために身を退くわ」という
実に岡村孝子風味の手紙だったんだけども、私たちは別に
許されない恋をしているわけでもなく、家のどうのこうの
があまりない北海道の事だから格がどうこうとかもなく、
唯一二人とも一人っ子だったと言うことがあったりしたけ
ど、というかそんな年じゃない。

とりあえず、電話してみたりしたら結構落ち着いた声で
「突然そんな気分になっちゃったんだけど、出してから後
悔したりしてるのよねぇ、わけわかんない内容でしょ、忘
れて」などと言われて、女の子ってみんなこうなのか、っ
て驚くやら、まぁ安心するやら。

で、その「わけわかんない」手紙のなかにあった一部分を
今でも覚えている。

「あなたは私のカラの中にすーっとはいってきて、外は楽
しいよって教えてくれてすーっと出てゆく。わたしは一生
懸命開けた窓から外を眺めて少しづつ外に出てゆく準備を
するんだ。時には窓から風や雨が入ってくることもあるけ
ど、大丈夫、いつかきっと外に出られる」

結局、離れてしまってエイヤっとカラの外にでた彼女はど
こかへ羽ばたいて行ったんだろう。

電車を降りて、なんとなくパチンコ屋へ入る。パチンコは
時に考え事をするのにちょうどいい。と思っていたら、な
んか結構出ちゃったりして。幾分か増えた財布を眺めなが
ら考える。人生晴れもあればケもある。残念ながら元気の
元にはなれなかったみたいだけれど、いつかまたこの携帯
に元気な元気なメールが届く事を願って。

あ、明日も仕事かよ、気が重いねぇ....